ドアが開かれる。
一秒後、髪をほどいた朝陽が遠慮がちに部屋へと入ってきた。
バスタオル一枚でくるまれた体からは、まだ湯気が立ち上っている。
白い肌は全体的に薄いピンク色に染まって、言葉では表せないような魅力に富んでいる。
早く抱きしめたいのに、当の本人はドアの側から動かずに目も合わせてくれない。
タオルに覆われていない腕や脚を恥ずかしそうによじらせるばかりで、オレのいるベッドに近づく気配を見せない。
しかたがない…オレの方から迎えに行ってやろう。
「…おいで、朝陽」
「……ぃ」
肩に手を添えて促すと、朝陽もようやく一歩を踏み出してくれた。
そのままベッドまで連れていくが、シーツの上に腰を下ろしても朝陽の反応はにぶい。
唇をむすんで、両手を膝の上に乗せている。顔をうつむかせて、肩をブルブルと震わせている。
まだ抵抗があるのかな？
いや、違う…恥ずかしいっていうだけだよな？
その証拠に、オレが手を差し出せば朝陽の方から握ってくれる。
オレが顔を寄せれば、朝陽も目を閉じて唇をすぼめてくれる。
「んっ…」
チュ…っていう音が小さく響く。
温かくて柔らかくて…そして、甘い。
そんな朝陽の唇から離れると、うるんだ瞳がしっかりとオレを見上げていた。
こうして朝陽と唇を合わせる仲になってから、これで五度目の夜。
初めの頃は怖がって体をこわばらせていた朝陽も、少しは慣れてきたみたいだ。
行為の前にキスしてやることで、緊張をほぐしてやれるということをオレも知った。
まだ乾ききっていない髪の毛を撫でてやりながら、露出した肩に手を置く。
湯上りの熱が、手の平全体に伝わってきた。
「ちゃんと綺麗に洗ったかな？」
「は、はい…」
尋ねながらバスタオルに手を掛けると、また朝陽の視線が下がる。
しっかりとオレの目を見てくれるのも嬉しいけど、こういう恥ずかしがっている表情も可愛いんだよな。
ゆっくりとバスタオルを外していくと、あらわになった肌を隠すように朝陽の腕が動き出す。
そんなに細い腕じゃ、隠しきれるものでもないのになぁ。
懸命に恥ずかしさから逃れようとする朝陽が可愛すぎて、ついついイジワルな気持ちが出てくる。
「朝陽の体は、どこもかしこも敏感だからなぁ…ここも、綺麗に出来た？」
「あっ…！」
周りより少しだけ濃いピンク色になっている胸の先端を、指先で軽く押してみる。
ほとんど触れただけの刺激なのに、朝陽は短く声を上げてしまう。
普段、他の人と話してる時とはまるで違う、オレだけが知ってる甘い声。
感度の良い朝陽の体は、どこを刺激しても今みたいにイイ声を聞かせてくれるんだ。
「ほら…今みたいに反応しちゃって、ちゃんと洗えてないんじゃない？」
「そっ、んな…こと……はぁっ」
否定しようとした口は、オレが先端をつまんだことで遮られてしまう。
ツンと尖った先端は、オレの刺激を受けるたびに赤味を増していく。
指の腹で押しつぶすようにすると、ぷっくりとした小さな突起が形までよく分かる。
片方の粒を指先で可愛がりながら、もう片方へと鼻を寄せる。
ボディソープの香りと朝陽本来の柔らかな匂いとが、まるで食欲を刺激するような思いをオレに抱かせる。
ためらいなく舌先で粒を転がすと、指先とは異なる愛撫に朝陽の声が大きくなった。
「あっ…あ、んん…っ」
「…うん、綺麗になってるね。それじゃ……こっちは、どうかな？」
伸ばしたままの舌先を朝陽の肌へと這わせていく。
胸から下へと移動して柔らかな部分をなぞっていく度に、敏感な朝陽は声にならないような喘ぎ声を漏らす。
「あ、んっ…ん…ラ、ビ…さんっ…」
甘ったるい声に混じって名前を呼ばれると、オレの欲望も果てしないくらいに昂ぶりを見せ出す。
白くて綺麗な腹部を、ゆっくりと舌で味わいながら下りていく。
たどり着いたくぼみにも舌を差し入れて、音が響くくらい刺激する。
一段と柔らかい箇所だからか、朝陽は体を小刻みに震わせるくらい感じ出した。
「んんっ…や…ダメ……キ、モチ…いいっ…」
否定と快楽の言葉を交えて、自分の意思を伝えてくる。
ダメとは言うけれど、それは前戯を嫌がっているためじゃない。
ベッドの上で気持ち良くなってしまっていることに――オレによって快楽を引き出されていることに恐怖があるんだろう。
けど、その恐怖を乗り越えた先にあるオレとの一体感を求めて、朝陽も本気で拒むことはしない。
片方の手は胸を刺激したまま、もう片方の手で脇腹をなぞる。
敏感で感じやすいところばかり責められて、朝陽は息を継ぐ暇もないくらいに喘ぎっぱなしだ。
その下にある果実へと手を伸ばす前に、オレは一度、朝陽の腹部から顔を離した。
「はぁ…はぁ…ラビ、さん…」
与えられたインターバルに、息を整えながら朝陽がオレを呼ぶ。
刺激に耐えている間中、ずっと閉じていた瞳をうっすらと開けて見上げてくる。
安心させるよう笑顔を見せながら、もう一度、触れるだけのキスをした。
「朝陽…どこもイイ匂いがするよ」
「っ……」
顔を近づけて囁くと、恥ずかしさから目を逸らされる。
その隙に、オレはベッドに仰向けになる朝陽の小さな体を観察してみた。
これから再びオレの手が触れることになる身体。
体もデカくて鍛えてるオレとは、一回り以上も体格に差がある。
シーツの色と変わらないくらいの白い肌に、傷でも付けたら大変だ。
舌や指だけの愛撫じゃなく、この手でこの腕で愛する時に壊してしまわないよう、よく観察しておく。
思い切り抱きしめたら折れてしまいそうなくらいの細さ。
なのに腰の辺りだけは丸みを帯びていて、女の子の体みたいだ。
女の姉妹がいるオレだから、よく分かるんだ。
だからって、正直に「女の子みたいだ」なんて言ったら怒るよな。
うん、オレも言うつもりはない。
だって、オレが朝陽を好きになったのは、何も女の子みたいだからじゃない。女の子の代わりだと考えているわけじゃない。
もちろん、オレと同じ男だから恋に落ちたってわけでもない。
オレにとって朝陽が、何よりも愛おしくて大切な存在だから……この世で、ただ一人の存在だから。
だから、例え朝陽が女の子だったとしても恋してた自信がある。
オレの腕に抱かれる体が男であろうと女であろうと、それが朝陽の体である限り、オレの想いは変わらないんだ。
「朝陽…触るよ？」
「あっ…」
事前に確認を入れてから、朝陽の秘部へと手を伸ばす。
オレの意図に気づいた朝陽が、唇をきゅっと固く結んだ。
やっぱり怖いよな。緊張もするよな。これが初めての夜じゃないけれど、オレだって初めての時と同じようにドキドキしてる。
オレのとは大きさも形もまるで違う、朝陽の幼い果実。
そこに触れるという行為自体にも、育ち切っていない朝陽自身に触れるという背徳感からも、胸の高鳴りは治まる気配を見せない。
刺激を与え過ぎないよう、指先でゆっくりと触れていく。
ゆるく剥いてやると、顔を出した先端から甘露がもう零れだしてきた。
顔を近づけて、伸ばした舌先で掬い取る。
敏感な部分はそれだけで反応を見せて、もっと蜜を溢れさせる。
「あっ…はぁ…ラビ、さ……」
速くなる吐息に混じって、オレの名前を呼ぶ声が切なく響く。
それを催促と受け取った。
わずかに与えられた快楽から、もっともっととせがむ声だと受け取った。
オレも、もっと口全体で朝陽を味わいたかった。
根元まで優しく剥いてやり、真っ赤に腫れた朝陽を口の中に含んでいく。
「あっ…あぁっ…」
先端だけでなく膨らんだ箇所全体を刺激されたためか、朝陽の喘ぎ声が大きくなった。
オレの愛撫で感じてくれているのが嬉しくって、もっと悦ばせてやろうという気持ちが湧き上がる。
口で咥えたまま、根元から先端まで舐めていく。
「あぁ、ん…ダ、メ……ラ、ラビ、さぁ…」
幼いながらも大きくなった朝陽が、口の中で跳ね上がる。
その動きを押さえつけるようにして、舌と上顎とで包み込む。
特に味はしないのに、こうして口に含んでいるだけで朝陽の全てが分かったようにも感じられる。
オレだけに明け渡してくれた、朝陽の秘密の部分。
それを手に入れた喜びが、オレ自身も大きくさせていた。
オレの愛撫で朝陽も限界が近そうだし、いったん動きを止める。
「はぁ…はぁ…」
「ふふ、口を離したのに、まだ上向いてる。…もっと、シてほしいの？」
「んっ…」
そんなの答えられないって感じに、朝陽が目を強くつぶる。
それは「うん」って返事してるのと同じだよ。
正直に答えるのを恥ずかしがっている証拠だから。
でも、上を向いて充血させているのは俺も同じ。
この下腹部の熱を静めるためには、どうすればいいか。
オレの愛撫は、朝陽の体のより下の方、より隠された場所へと移動していった。
「ひゃっ…ラ、ラビさん！」
目をつぶっていた朝陽が、予想外の感覚に声を上げる。
まだ割れ目に手を掛けただけなのに、イイ反応するなぁ。
その割れ目を両手で開いてやると、ピンクより少し濃い色をした秘肉が顔を覗かせた。
中に触れようとしたところで、あることを思い出した。
そうだった…アレがあるんだったな。
はやる気持ちを抑えて、ベッドの下へと手をやる。
朝陽がシャワーを浴びている間に用意しておいたんだ。
湯を張った洗面器から、ボトル状のプラスチックの容器を取り出す。
程よく温められた中身の液体が、朝陽に痛い思いをさせない秘訣だと教えてくれたノアの微笑が浮かんでくる。
その言葉を信じて、キャップを開けて容器を逆さに傾ける。
トロリとした透明の液体が、手の平の上に零れた。
温かい…それに、すごく糸を引いていて粘り気がある。
その透明の液体を朝陽の秘部に塗り付けると、朝陽が素早い動きで腰を引っ込めた。
「ララ、ラビさんっ！？な、なんですか…？」
「怖くないよ。これは、朝陽が痛くならないようにっていう…おまじないみたいなものさ」
「お、おまじない…？」
安心させるように説明をしてやり、再び朝陽の腰を開いて秘部に触れる。
恐怖から固くつぼんだ箇所に液体をたっぷりと垂らして、くちゅくちゅって音をさせながら擦りつける。
「ひ…ぃっ…」
温かくてヌルヌルとした感触に慣れないのか、朝陽は悲鳴にも似た声を上げて体を震え出した。
でも、大丈夫だよな？別に痛いことをしているわけじゃない。
それに体は緊張でこわばっているのに、オレが触れている箇所はどんどんほぐれてきてる。
擦りつける度に液体は熱を帯びていって、つぼんだ縁に触れているだけだった指がふいに中へと吸い込まれた。
「あぁっ！」
「うゎ…」
あまりの抵抗の無さに、オレも指の動きを止めてしまった。
にゅるんと入り込んだ指に、熱くなった粘膜がまとわりついてくる。
引き抜こうとすると、手放すまいとしてますます指をくわえこんでくる朝陽の中。
ゴクリ、と息を飲んでから秘部の誘惑と自分の欲望に抗って指を抜く。
濡れた孔が、なおもオレを求めるかのようにヒクヒクと動いている。
「…もっと慣らしておかないとな」
朝陽への説明というより、自分への言い訳みたいな感じでつぶやいて、朝陽の白い丘に顔を近づける。
左右から両手で割れ目を広げて、今度は指の代わりに舌を差し込む。
指との感触の違いから、オレが何をしているのか朝陽にも分かったらしい。
それまで大人しかったのに、オレの頭に手を伸ばして泣きそうな声を出した。
「ラビさん！？ダメっ…そんな、トコ…」
「どうして？朝陽の綺麗なピンク色…よく見せてくれよ」
「ダ……ひゃ、んっ…」
構わずに粘膜を舐めると、朝陽の口から甘い吐息が漏れる。
体からも力が抜けて、液体の力も借りてオレの舌は難なく朝陽の奥へと入り込んでいく。
「ひっ…ゃ…。な、何か…ヘンです。オ、オレ…っ…」
「ふふっ、ガマンして朝陽。痛くしないように、入念に濡らしておかないとな」
ピチャピチャと音を立てながら、舌先で朝陽の中をほぐしていく。
その水音が響くのが朝陽にとっては恥ずかしいと分かっていて、わざとやってるオレがいる。
縁に添えていた指までもが自然と孔に吸い込まれていく頃、オレは十分だと確信した。
「そろそろ挿れても大丈夫だよな…。朝陽、そのまま楽にしてて」
オレに愛撫をされてる間中、喘ぎっぱなしでノドが枯れてきたのか、朝陽はすぐには返事できないようだ。
だけど、腰つきは早く早くとせがむようにしてモジモジしてる。
朝陽も、オレを受け入れる心の準備は整っている。
そう受け取って、ボトルの中から液体を足してオレ自身に塗り付ける。
先端を秘部に当てると、さすがに指よりは抵抗を感じる。
それでも、さんざんほぐしておいた成果があったようだ。朝陽の腰を掴んで軽く持ち上げると、それだけでオレを飲み込んでいく。
侵入のスピードが速い。それに、いつもより深いところまで入っていく。
「あっ…あぁぁ…」
一気に奥まで届いて、朝陽も息を吐き出す。
その響きは、苦しさよりも別の感情に満ちていた。
あの液体のおかげで、朝陽もそんなにツラくはないのかな。
そう思って表情を窺うと、余裕が無いって風に唇を噛みしめているのが見えた。
必死に耐えようとしている表情。だけど、いつもの感じとはどこか違う。
あ、そうか。朝陽も同じなんだな。
すんなりとオレを飲み込んで、それで苦痛も少ないから、戸惑いとか恥じらいとか感じちゃってるんだろう。
「…いいんだよ、朝陽。キモチよかったら、思い切り声を出しても。オレは…オレでキモチよくなってくれる朝陽を見たいな」
「ふ、ぇ…」
オレに促されて、朝陽が少しだけ表情を緩める。唇の隙間から、子供みたいな声が微かに漏れた。
朝陽が再び表情を歪めないよう、出来るだけゆっくりと動こうとする。
けど、腰を引く動きも差し込む動きも驚くくらい滑らかで、どうしたってゆっくりは出来ない。
それに、すごく熱い。
中の狭さ自体はいつもと変わらないのに、ヌルヌルと滑りが良いせいか気持ちよさは段違いだ。
腰を動かせば動かすほど、朝陽を突き上げる速度が上がって快楽が増していく。
粘膜の間から濡れた音が響くほどに、朝陽の押し殺した喘ぎ声が耳に届いてくる。
「っ…んん…」
「朝陽…ガマン、しないで…ほら、声を出してごらん？」
「…ぁっ…ああぁっ、んっ…」
頬を撫でて促しながら突いてやると、やや裏返った声が部屋の天井にまで響いた。
その声に後押しされて、オレの腰も激しさを増す。
朝陽の顔に添えていた手を腰元に持ってきて、両手で強く掴む。
凶器のように硬く熱くなった突起を押し込むたびに、朝陽が叫ぶようにして喘ぐ。
「くっ…朝陽！キモチ…いいか？」
「あん！…ぁん…ビ、さん…いぃ、です…あぁん…！」
快楽に苦しみながらも、必死にオレに応えようとする朝陽が可愛い。
だからこそ、オレも動きを止められない。
朝陽の体でオレ自身の快感を高めたくて。オレの体で朝陽を満たしてあげたくて。
「はぁっ…ラビ、さ…ラビさ、んっ…オレっ…あ…あぁっ…」
朝陽の喘ぐ間隔が、だんだん短くなってくる。
挿し入れた中も、きゅぅっとオレを締め付けてくる。
上を向いた朝陽自身には触れていないのに、その先端は膨らんで今にも噴き出しそうになっている。
「朝陽っ…いいよ、イッても。朝陽が可愛くイクところ、オレに見せてっ」
「あんっ…ラ…ラビさ…ぁんっ…ラビさぁぁん…っ」
オレの名前を何度も呼びながら、朝陽が絶頂を迎える。
背中を反らして声を震わせながら、白い雫を飛び散らしている。
その妖艶な光景に、オレ自身の昂りはいっそう膨れ上がっていく。
朝陽が一瞬だけ意識を失いかけたのも、そこから目覚めて息を荒くしているのも分かったけど、今のオレに朝陽を気遣う余裕はない。
まだ限界に達していないオレの欲望を満たそうと、朝陽の肩に手を掛ける。
「…ゴメン、朝陽っ…。もうちょっとだけ…ガマンしてくれっ」
「ぇ…？」
わけが分からないって感じに見上げる朝陽の体を抱き起して、オレの膝の上に座らせる。
角度が変わったことで、勃ち上がったオレがさらに朝陽の奥へと侵入していった。
それに反応するかのように、朝陽が必死になってオレの背中にしがみつく。
イッたばかりで体に力が入らないんだろう。崩れ落ちそうになる感覚が怖いと訴えるようにして、両腕をしっかりと背中に回してくる。
「朝陽…」
ホント、可愛いな…。
優しくなだめるようにして、朝陽の髪や背中をさすってやる。
だけど、そんな思いやりはすぐに顔を引っ込めてしまった。
互いの腕が互いの背中に伸ばされ、胸と胸とが密着した状態。
体勢が違うだけで、こんなにも触れ合う面積が変わってくるのか。
触れ合う箇所が増えるだけで、こんなにも気持ちの昂りが変わってくるのか。
朝陽の体ごと持ち上げるようにして、思い切り腰を突き上げた。
「あぁっ！」
飛び跳ねそうになるくらいの勢いで朝陽が反応する。
オレの上から転げ落ちないよう、背中に伸ばした手を更に絡ませてくる。
朝陽の腕の細さが、背中に伝わってくる。
抱きしめた腕の中に、朝陽の華奢な体型が感じられる。
そんな線の細さからは想像できないくらい、朝陽の中はオレを強く締め上げてくる。
熱くなった壁が吸い付いて、朝陽の一番奥まで誘い込んでくる。
その誘惑に、オレはもう勝てなかった。
「っ…朝陽…朝陽！愛してるよ…だから、もっと！」
「は…ぃ…。オレも、もっと…ラビさん、と……あぁっん！」
朝陽の名前を呼ぶたびに、朝陽がオレの名前を呼ぶたびに、オレを締め付ける力が強くなる。
その感覚を意識するたびに、オレの中の快楽が暴れ出していく。
――ダメだ、限界だ！
それまで保ってきた理性が、朝陽に対する欲望の前に吹き飛んでいった。
オレの力で抱きしめたら折れてしまいそうな朝陽の体を、力いっぱいに包み込む。
その身が軋むくらいに、力強く。
朝陽の指も、力を込めてオレの背中に爪を立ててきた。
それは、苦痛を訴えるためじゃないって、朝陽と繋がっているオレには分かっていた。
朝陽も同じだ。
内側から溢れかえる快楽に意識を奪われないよう、必死にオレにすがりついているんだ。
だから、爪を立てられた痛みさえ心地いい。
朝陽の愛情が、そこに込められているから。オレの愛情に対する、朝陽の返答だから。
「朝陽っ…もっと…もっと！」
もっと側に――。
そんな思いに駆られて、更に両腕の力を強める。
ぎゅっと抱きしめて朝陽の頭をオレの胸に埋めさせると、朝陽もそれに応えてきた。
口を開いて左胸の突起に吸い付いてくる。
心臓に直接響いてくる朝陽の息遣いが、たまらなく愛おしい。
オレを悦ばせたいという朝陽なりの思いやりか、それともすがりつきたいという思いからか。
どちらにせよ、朝陽からオレに愛撫してくれたという嬉しさが込み上げてくる。
赤ん坊が母乳を求めるような、言ってしまえばぎこちない。そんな口の動きにさえ、オレは欲望を加速させていく。
朝陽を抱きしめたまま、再び押し倒す。
腰の動きを強く速くして、欲望の全てを解き放つ。
「朝陽…いいか？イクよ…朝陽っ、朝陽！」
「んっ…ラビ、さっ…ラビさ…ん…あぁっ」
朝陽の小さな体が、オレの腕の中で大きく跳ね上がる。
限界を迎えたオレが、朝陽の中に絶頂を注いだからだ。
果てたことよりも、その朝陽の反応に満足がいっていた。
けど、その満足感も一瞬のこと。
一人でするのとは違って、行為の後は急に寒さに襲われるって朝陽との夜を通じて学んだ。
肉体のクールダウンは、頭まで冷静にさせる。
我に返ったオレは、とたんに恐ろしさを覚えた。
「朝、陽……」
行為の最中は朝陽をオレのものにしたくって、ちっとも気が回らなかった。
今、オレの両腕は朝陽をしっかりと包み込んでいる。
朝陽の小さな体を、オレみたいな大男がどれだけの力で抱き締めていたのか。
それを自覚して体を離したところで、全身の血が引く思いがした。
傷一つ無かった朝陽の綺麗な肌に、くっきりと赤い痕があちこちに残ってしまっている。
オレ一人で夢中になって、何てことをしてしまったんだ……。
罪悪感を通り越して、嫌悪感に打ちのめされる思いだ。
謝りたい気持ちは溢れるぐらいあったが、あまりに痛々しい姿に言葉がつまる。
体と心が冷え込むのを感じながら、オレは無言で朝陽を見下ろし続けた。
「…ラ、ビ、さん…？」
朝陽の目が、ゆっくりと開かれる。
微笑もうとした顔は、恐怖に駆られるオレを見て不思議そうな色を浮かべた。
その瞳が、自分の体へと下ろされる。
オレが残した惨状に、目をパチパチとさせている。
その表情が曇り出さないか心配で、オレはじっと見守っていた。
数秒後、朝陽の白い指が体についた痕をなぞり出した。
「ラビさんの…痕。……嬉しい…です」
責められたり泣かれたりしても、おかしくない状況。
それを覚悟していたオレは、耳を疑った。
嬉しい？
聞き間違いじゃないかって、オレは自分の耳を信じられなかった。
だって、朝陽の体に痕を残してしまったオレの方が辛いくらいだったから。
「痛く…なかったか？」
「全然…ラビさんの腕も…胸も…温かくて、オレ…抱きしめてもらっている間中、ずっと幸せでした」
言葉と同じく、表情にも嬉しさを見せる朝陽。本当に喜んでくれているんだ。
今までに無いくらいの幸せそうな朝陽の微笑み。オレに気を遣ってガマンしてるんじゃないっていう証拠。
それはつまり…今までのオレが間違っていた…っていうことなのか？
朝陽が好きだから…この世の何より大切だから。
だから、その朝陽に痛い思いをさせたくないと考えて、つい遠慮してしまっていた。
そっちの方が、朝陽がより辛い思いをするだなんて考えもせずに。
大好きな朝陽の体だから――壊れてしまいそうなくらい儚げで綺麗な体だから――だからって怖々と触れているようじゃ、オレの気持ちは伝えきれない。
オレが朝陽をどれだけ愛しているか。
言葉だけじゃなく、目を見つめるだけじゃなく、体で伝えるにはどうすればいいか。
オレ自身、朝陽に爪を立てられて嬉しいと感じていた、あの気持ち……それは、朝陽だって同じなんだ。
これまでの夜…もしかしたら朝陽は、ずっと不安だった？
オレが遠慮ばかりしているせいで、朝陽を不安にさせてしまっていたのかな。
今夜、想いと同じくらい本気で朝陽の体を抱きしめたことで、オレたちはお互いの想いを確信し合えた気がする。
「でも…ゴメン、な？オレの気持ちを伝えるために、朝陽をこんな痛々しい姿に…」
「ううん…。これは…ラビさんが付けてくれた、ラビさんの証…。オレ、ラビさんのものになっちゃいました」
朝陽にしては珍しく、おどけた感じに笑ってみせる。
あぁ、本当に嬉しいんだな。
オレに本気で抱きしめられたことが。心だけじゃなく、体ごとオレのものになれたことが。
でもな、朝陽…オレは出会った時から朝陽のものだよ。
あの日、初めて顔を合わせた瞬間に、オレの心は朝陽にあげてしまったんだから。
「朝陽…オレが本当に証を刻みたいのは…ココだよ」
朝陽の左胸に手を置いて囁く。
伝わってくる鼓動の速さ――そこにオレがいる。
朝陽に明け渡したオレがいる。
そして、オレが手にしたいものも…。
「ラビさん…。オレ、分かってます。ラビさんは、ちゃんとオレに…くれてる。オレ…ラビさんのココ…もらえてるって」
伸ばされた朝陽の手が、オレの左胸に触れてくる。
そこには確かに朝陽がいた。
外側からは朝陽の手が触れ、内側では朝陽の想いが鳴り響く。
知らず知らずの内にオレたち、お互いを分け合えていたんだな。
それを心と体の両方で確かめ合うことが出来たんだ。
「うん…。嬉しいよ、朝陽。オレの想い…ちゃんと伝わっていて。朝陽の想いも…オレと同じだ。その温かさが、オレを支えてくれている」
「…はい」
はにかんで目を細める朝陽。
それでも視線はオレの顔を捉え、手はオレの左胸に添えられたまま。
オレも同じ表情で朝陽を見つめ、同じく朝陽の鼓動を手の平に感じている。
それぞれの心の中で溢れかえる、相手への熱い想い。
言葉にするのなら、それは――。
「愛してる…ずっと、ずっと…大好きだよ、朝陽」
「…はい…はい！オレも、ラビさんが…ラビさんが大好き、です」
眩しいくらいに笑顔を輝かせる朝陽の、その愛しい体を再び抱きしめる。
今度は慈しむような優しさで。朝陽の笑顔を消してしまわないよう、優しく抱きしめる。
けれども、絶対に手放したりはしない。心だけは、しっかりと両腕に込める。
引っ込んでいった欲望の代わりに、ありったけの愛を朝陽の体に注ぎ込む。
そして、朝陽がくれる愛もオレの胸に抱きしめる。
オレの背中を抱く朝陽の指から、オレの胸と重なった朝陽の左胸の鼓動から、確かな愛を受け取った。
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