「黄金聖闘士」編
第八話 天蝎宮
聖域十二宮の八番目に位置する天蝎宮。そこを守護する次なる黄金聖闘士が、先を急ぐ星矢と紫龍の前に立ちはだかった。黄金色の長髪をなびかせて立つ姿は、異様なまでの余裕と威圧感を相手に与える。その頭髪より格段に輝く黄金聖衣は、サソリを象った意匠を持ちながらも禍々しさは微塵も感じられない。神の名の下に天上に瞬く星の優雅さを遺憾無く湛えている。
「ペガサスにドラゴンか。お前たち最下級の青銅が、よくもここまで来れたものだ。いや、デスマスクやシャカの小宇宙が途絶えたのは、俺も捉えている。よかろう……」
星矢たちは、ぐっと息を飲み込んだ。天蝎宮の番人が、戦闘の小宇宙を燃やし始めたからだ。仲間の敵討ちという雰囲気は醸し出していない。かといって、反逆者を誅殺しようという意気込みも感じられない。上位の者が、下位の者に胸を貸してやろうという余裕に溢れていた。
「蠍座を司るスコーピオンのミロに相手をしてもらえるのだ。他の青銅では、なかなか叶うものでもない。心して掛かってこい」
見方によっては、星矢たちを軽んじているとも受け取れる壮語。しかしながら、決して自惚れの類ではない。自他の力量差を的確に見極めた上での発言だ。そう、相対する者の内なる小宇宙さえも的確に感知した上での。
絶対的な余裕を有しながら、一片の油断も見せないミロの立ち姿。それを臨んで、星矢と紫龍は目の端で視線を合わせた。
「相手は、言わずと知れた黄金聖闘士。だが……」
「そうだ。アルデバランが言ってたじゃないか。光速を上回る拳を持つ者は、アイオリアとシャカを除けば十番目の宮にいる聖闘士だけだと」
ならば、その獅子宮と処女宮を越えてきた今の自分たちであれば、少しくらいは亜光速の動きに対応できるかもしれない。単身では及ばないかもしれないが、幸い、ここには二人いる。いくら黄金聖闘士といえども、分散する敵を一度に相手取るには限界があるはずだ。星矢と紫龍、二人が同時に攻撃を仕掛ければ勝機はある。
「作戦は決まったか？ ならば、この俺に通用するかどうか挑んでみせろ」
相手に言われるまでもない。二人とも、勢いを込めて足を踏み出した。二対一の勝負が卑怯とは知りつつも、それに構ってはいられない理由がある。星矢と紫龍は息を合わせて同時にミロへと突進を繰り出す。
その足が、不意に止まってしまう。二人とも、何が起こったのか分からないでいる。自分たちが意気込んで向かっていこうとしたミロの目の、その威圧感に負けてしまったのか。恐怖をもたらす目を、深く覗き込み過ぎてしまったのか。否、その逆だ。
「俺の瞳に見詰められた人間は、誰であっても動きを止めてしまう。そして無防備となったところを、次の一撃でとどめを刺されるのだ」
金縛り状態となった両者に向かって、ミロが右手の人差し指を突き出す。そこから、真紅の閃光が放たれた。一瞬後、星矢と紫龍はこの世のものとは思えぬ絶叫を上げて悶絶した。
「ぐぁぁぁ……こ、これはっ……」
「お、俺の全身が……ああっ！」
そんな所に注意を払う余裕も無いが、二人の体には小さな穴が開いていた。青銅聖衣を貫いて、針に刺されたようなほんの小さな傷跡が確かめられた。その傷口から、彼らの全身を即効性の猛毒が巡るかの如き痛みが走っていた。神経に直接突き刺さる激痛によって、星矢たちは悶絶する。出来ることなら全身を暴れさせて、少しでも痛みを紛らわしたい。しかし、先に金縛りを受けていた身では、それも不可能だ。その金縛りによって、今の攻撃も食らってしまったのだ。
だが、果たして体の自由が利いたところで躱すことが出来たであろうか。アイオリアやシャカの放つ超光速の拳ならいざ知らず、マッハ九十万前後のスコーピオンの牙なら見切ることも出来るはず。そんな淡い期待は見事に粉砕された。十二宮の半分を過ぎて死線と修羅場を潜り抜けようとも、青銅聖闘士と黄金聖闘士との絶望的な力量の差は依然として埋め難かったのだ。
「その身を縛るリストリクション。そして、とどめのスカーレットニードル。どちらも破るには至らないようだな。せめてリストリクションの金縛りぐらい、自力で解けぬものか？」
挑発めいたミロの言葉に、星矢も紫龍もムキになる。が、そうしたところで状況が改善する事もない。有無を言わさぬ束縛。星矢たちは、即座に理解した。この男は、決してアイオリアやシャカと比べて実力で劣っている訳ではない。光速の動きなど、取る必要がないのだと。
「どうだ、青銅のヒヨコたちよ？ この激痛に負けたとしても、誰も恥だとは言うまい。ここで降参して下山することを誓うのなら、お前たちの金縛りを今すぐ解いてやるぞ」
その誘いが、ひどく甘い魅力に満ちているように感じられた。今の痛み苦しみから逃れられるのであれば、いっそ降伏してしまおうか。ギブアップを口にするか、意識を手放すか、どちらが早いか。どちらにしても諦めの気持ちに押しつぶされそうになっていた二人の耳に、一つの声が飛んできた。ミロの物ではない、よく知った少年の声だ。
「待ちな！」
その声に、ミロも反応を示す。星矢たちを縛り付けたまま、視線を宮の入り口の方へと向ける。その方向から、純白の聖衣に身を包んだ少年が歩いてくるのが目に映った。そして、信じられないといったようにミロは目を見開く。
「お前は……キグナスの氷河!?」
「せっかくだが……俺の兄弟たちに、そいつは愚問だぜ。俺たちはアテナを救い出すまで、決して諦めたりはしないのだ」
氷河の登場に、星矢たちも気力を取り戻す。痛みに負けそうになっていた意識を奮い立たせ、何とか束縛を解き放とうと藻掻く。
「氷河っ……お前、体は……」
少し前まで、天秤宮で死にかけていたのは氷河の方だった。それが、こうして駆けつけてこれるとは。
「瞬が……やってくれた、のか……」
見れば、氷河の胸には瞬が抱かれて眠っている。氷河を生き返らせるため、心血を注いで力を使い果たしたのであろう。目を伏せ、ぐったりとしている。それでも氷河には、しっかりと感じられていた。ぴったりとくっ付け合った胸から、瞬の命の鼓動が途絶えていない事が。
「……何を泣いている？」
氷河の復活だけでも驚いていたミロであったが、更に意外な光景を目にして思わず尋ねた。氷河の二つの碧眼から、とめどなく涙が溢れている事の理由を聞かずにはいられなかった。
「この涙は……瞬に捧げるものだ。中途で挫折した無様な俺など、瞬は放っておいて良かった。それがっ……」
瞬の我が身を犠牲とした献身が、氷河の命の灯を蘇らせたのだ。平素はクールに振る舞いながらも、己のために命を投げ打ってくれた兄弟の熱き魂に何も感じないような不人情ではない。シベリアの氷すら解かす程の熱い涙が滂沱と流れるのを隠そうともせず、心底では瞬の想いに応えるべく静かに小宇宙を燃やし続けていた。
瞬を優しく床に寝かせると、身動きできない状態で立ち竦む星矢たちの脇を抜け、氷河はミロと向き合う。その姿は、今まで自分が不甲斐ない代わりに戦い、傷ついてきた兄弟たちの盾になろうという決意を感じさせた。
「俺の名を知っているようだな。俺も、スコーピオンのミロというのが聖域でも有数の、かなりの使い手であると聞いている。相手にとって不足は無いぜ」
氷河の小宇宙が、更に高まっていく。ミロへの戦意も明白だ。それに応えてやろうとばかりに、ミロは短く笑うと氷河を正面から見据えた。しかしながら、氷河のすぐ後ろにある二つの気配に変化は見られない。星矢と紫龍は、依然として金縛りにあったまま苦しんでいる。
「おい、二人を縛り付けたままで俺を相手にするというのか？ 黄金聖闘士とはいえ、それは舐めすぎだぞ」
「君の方こそ、青銅が黄金に挑むと分かっていながら大した自信だな。たった一人で戦おうという、君に対するハンデと受け取ってくれて構わん」
そのミロの発言に対する、無言の返答が氷河の周囲を一変させる。キグナスの聖衣が見せる輝きとは、全く別の発光現象があった。それは、氷河の周りに浮かぶ無数の六角形の結晶が織りなす光の反射だ。
「東シベリアで鍛えられた俺の小宇宙は、そんじょそこらの聖闘士とは訳が違う。原子を砕くばかりが聖闘士の業ではないということだ。この宮に満ちている水分子はおろか、水素原子に至るまで凍結させてやろう」
氷河が凍気を自在に操る氷の聖闘士であることは、ミロも先刻承知だ。その氷河自慢の凍気の一端を目の当たりに見て、ミロは薄く笑ってみせた。年長の者に喧嘩を売って粋がる乳臭さに、思わず吹き出してしまったかのような仕種だ。
「フフッ、勇ましいな。だが……クールではない。今の君が冷やすべきは、むしろ君自身の水素九十六……激情だな」
その口ぶりは、氷河を挑発するというよりは威嚇の意図を含んでいた。星矢や紫龍の身を拘束している視線を、氷河に対しても向ける。
「さあ、君もそこの二人と同じく、俺に跪くのだ……リストリクション！」
ミロの双眼から発せられた光に、星矢と紫龍が慄く。今もなお、自分たちの体を締め付ける見えない緊縛が、氷河にも襲い掛かる。それは即ち、自分たちの全滅を意味しているからだ。自分たちの全滅が、即ち沙織の死に繋がるからだ。
星矢たちの心配の眼差しを背に受け、前方から向かってくるミロの視線を氷河は真正面から受け取る。緊張はあったが、恐れや不安は無かった。その理由に、リストリクションを放つミロもすぐに気が付いた。いつの間にか、自分と氷河との間に凍気の溝が出来上がっている。
「凍気!? なるほど……俺のリストリクションの光を屈折させ、それで自分の身を守ろうというのか」
氷河の防御法に、ミロがやけに早く気が付いた。そのことについて、氷河は若干の疑問を抱いた。だが、すぐに考えを振り払った。最上の黄金聖闘士であれば、それぐらいの予測も容易いのだろうと思うことにした。今、自分の注意をその黄金聖闘士の攻撃から逸らす訳にはいかない。
「姑息なマネを……と言いたいところだが、どうやら君の作戦勝ちのようだ。流石にリストリクションでは、君の凍気とは相性が悪い」
「ならば、今度は俺の技を見てもらおうか。青銅が黄金の技を回避してやった次は、青銅の技が黄金の肉体を締め付ける番だ」
強い口調と共に、ミロを指差す氷河。その人差し指の先端から、氷の結晶が鎖のように連なりながらミロへと走っていく。やがて結晶は、渦巻く螺旋階段のようにミロの足元から首筋まで、とぐろを巻いて締め付ける。
「カリツォー……その氷の輪は、決して捕らえた相手を放さない」
氷河の自信に満ちた言葉を聞いて、ミロも自身の状態を見極める。そこに、氷河の言葉ほどの効果は無いと判断した。やはり格上の黄金聖闘士に対しては、氷河自慢の術も通用しないのか。ミロは軽く小宇宙を高めただけで、全ての結晶を吹き飛ばしてしまった。
「こんなチャチな鎖で、俺の身を束縛できるものか。さあ、お前の全力をぶつけてきてみろ」
それは、挑発の類ではない。ミロは、氷河の実力がこんなものではないと思いたかったのだ。氷河を鍛えた人物について、よく知っている身だからこそ、氷河の今の実力に興味を覚えたのだ。
そんなことには全く気付かないながら、氷河も言われた通りに全力の小宇宙を燃やす。元よりカリツォーごとき初歩的な技で、ミロを倒せるとは氷河も思ってはいない。ただ、芯まで凍てつく冷気から蘇ったばかりの自身の小宇宙について、どこまでやれるか確認するための肩慣らしだったのだ。今度は違う。本気でミロを倒すべく、氷河が今まで培ってきた小宇宙の全てを燃焼させる。ここが氷河の生まれ育った極寒のシベリアかと錯覚させる程、天蝎宮の中を氷雪が霏々と舞う。
「では、その身に食らわせてやるぞ、ミロ。この氷河が作り上げる死の世界……ダイヤモンドダスト！」
氷河が繰り出した右手から、無数の宝石が飛んでいく。それは人の目を楽しませる輝きではなく、確実に死へと誘う墓石だ。だが、それも黄金聖闘士が相手では本来の威力を発揮しないのか。ミロは先程のカリツォーを凌いだのと同じく、微動すらせずにダイヤモンドダストを防いでいる。
流石に氷河も焦りを覚えた。ここ天蝎宮は八番目の宮。自分が倒れた双児宮から先にて、敵が待ち受けていたであろう巨蟹宮や処女宮を、星矢たちはどうやって攻略し突破したのだろうと振り返りたくなった。
それでも、まだ希望はある。氷河には、残された秘策がある。しかしながら、それさえも不安にさせるほどにミロは平然とダイヤモンドダストを受け止めて薄ら笑いすら浮かべている。
「この程度の凍気しか放つことが出来んのか、氷河？ それでは最強の黄金聖衣を着る俺の薄皮一枚とて凍えさせることは出来んぞ。フフッ、君の師……我が友カミュには遠く及ばんな」
「カミュ……だと!?」
ミロの口から、氷河の師であるアクエリアスのカミュの名前が出てきた。そのカミュを友と呼んだことで、氷河は察した。ミロが氷河の名を知っていたり、やけに実力を探ろうとしていた訳が。そして、突きつけられた。ミロが見定めた氷河の実力が、師カミュの域には未だ到達していないという現実を。
「そうだ、氷河。カミュの小宇宙が生み出す凍気は、正に絶対零度の世界。それは万物を……黄金聖衣さえも凍結させてしまえる凍気なのだ」
絶対零度――零下二百七十三度を下回る、この世においては宇宙空間でさえ存在しえない極低温。それに関する知識は、氷河もカミュから直に与えられていた。だが、知っていることと実現できることとは別問題。青銅聖闘士の氷河では、セブンセンシズに目覚めているカミュの業には遠く及ばない。
「生意気が売りの君も、些か恐怖したか？ だがな、君が今対峙しているのはカミュではない……この俺だということを思い出してもらおうか」
その言葉にミロを見返そうとした氷河の身が、一気に硬直した。左股に、鋭い痛みを感じる。氷河の異変に、星矢たちはすぐに思い当った。自分たちが苦しめられたスカーレットニードルが、氷河の体にも注がれたのだと。
一体、いつミロは攻撃を仕掛けたのか。氷河がダイヤモンドダストを放ったのと、ほぼ同時に繰り出したのは間違いないはず。その時の動作が、全く分からなかった。攻撃の際にも、氷河は一瞬たりともミロから注意を背けなかった。だが、その氷河の意識が僅かに逸れた一瞬は、確かにあったのだ。その一瞬を見抜くや、ミロは亜光速の拳を撃った後に何事も無かったかの如く直立の姿勢を戻していた。
そんな恐怖に打ちのめされる間も無く、肉体的なダメージによって氷河は呻く。左の太腿に開いた、ほんの小さな傷跡。そこから神経を細かな針で突き刺すかのような痛みを発症させる毒が、猛スピードで全身を駆け抜けていく。
「うっ……ぐ、ああぁ」
まだ痛みで転げ回らずに済む内に、氷河は死力を振り絞って凍気を患部へとあてがった。氷の結晶が傷跡を覆い、その一点だけ体温を急激に低下させる。神経を麻痺させることで、痛覚を遮断したのだ。ただし、副作用として氷河は左脚の感覚を失って満足に動かすこともままならなくなってしまった。
しかし、だからこそ小宇宙を高められるのだ。自分の後ろには無防備の仲間がいる。自分がミロの拳をかわせば、仲間は確実に死ぬ。退くことの出来ない決死の覚悟が、今までにない程に氷河の小宇宙を高めさせる。
「ここでっ……俺は、ここで挫ける訳にはいかない！ 東シベリアにてマーマの船を沈められ、天秤宮では圧倒的な実力差で倒された……そんな無力な俺では終わらないということを、あの人に突きつけるまでは！」
その胸の中は、今やカミュへの思いでいっぱいだ。自分たちがアテナの命を助けるために十二宮を進んでいることは確かだが、氷河にとってはそれだけの話ではない。自分に聖闘士としての全てを授けた師カミュを乗り越えるべく、カミュに己の全てを見せつけるための戦いでもある。
「そのためには、ミロ……ここで貴方を倒す！ このキグナスの両翼に懸けて！ 唸れ暴風……ホーロドニースメルチ！」
失われた左脚の感覚など余所へと放って、氷河の右腕はあらん限りの勢いでアッパーカットを繰り出す。それが宮全体に広がっていた凍気の全てを、巨大な竜巻に変えてミロへとぶつける。確かに今の氷河では、絶対零度は生み出せないかもしれない。それでも渾身の吹雪は、少なからずミロにも届くはず。それが出来ない内は、氷河はいつまでたっても師を超えられないのだ。
この一撃がカミュの位にまで達しているのかどうか。再び、その身で判断してくれという懇願と共に氷河は自己最大の攻撃をミロへと見舞う。それに対してミロは、恐れも焦りも表情に浮かべず、防御の構えすら見せない。ただ、顔の高さにまで上げた右手の人差し指を伸ばしただけだ。その指先が真紅に輝くと、氷河の放った凍気はたちまち蒸発して消え失せていった。
「俺の全凍気が、ミロの指一本に阻まれている!? それだけの威力があるというのか……あの、たった一本の指に」
「そういうことだ。俺は、例え黄金聖衣の護りが無くとも君の攻撃をしのぐぐらい、訳ないということだ」
氷河の全小宇宙を防いだミロの指先が、氷河自身へと向けられる。同じ力を、今度は防御ではなく攻撃に転じようというのだ。咄嗟に氷河は全身を緊張させるが、いかなる守りも意味がないとばかりにミロは笑う。
「豪傑オリオンでさえ、ひれ伏した赤い牙の猛毒……さあ、耐えられるか？ 氷河よ！」
ミロの亜光速の拳を見極めんと、氷河は目を凝らす。小宇宙の全てを視覚に注いで、今度こそ防いでみせると息を巻く。
「いい意気だ……楽しませてくれよ。スカーレットニードル！」
赤い閃光が映ったのか、氷河が瞳を見開く。しかし、それよりも早くにミロの攻撃は終わっていた。差し出した指先から放たれた光線が、氷河の両肩を穿つ。氷河は喉の奥から悲鳴を上げて背を反らす。
「天空を翔ける白鳥自慢の両翼も、これで封じられたな」
嘲笑うミロの声を聞く余裕が、果たして氷河にあったであろうか。反射的に、先程と同じく傷口を塞ごうと試みるが両腕が上がらない。それでも意識を懸命に働かせて、自分の周囲を漂う微かな冷気を集める。辛うじて両肩の傷穴を凍結させ神経を殺すが、それも気休めだ。氷河は移動も攻撃も封じられ、立ち尽くすことしか許されなくなった。そんな状況を前にして流す汗が、せっかく傷口を埋めている氷さえ溶かしかねないほど止めどなく溢れてくる。
「この状況で、よく気力を失わずにいられるものだ。それだけでも、君の健闘ぶりは称賛に値するぞ。どうかな……君の小宇宙と心意気に免じて、命だけは助けてやっても良い。このミロに自身の敗北を宣言する気は無いか？」
その誘惑に、むしろ氷河は激怒した。衰えかけていた戦意が、再び燃え上っていくのを感じた。普段のクールな彼とは思えないほど、熱い闘志を瞳に宿して咆哮する。血が出るほどに食いしばった歯の奥から、氷河の怒声が響く。
「ミロよ……さっきも言った通り、俺たちにそれは愚問だ！ 貴方も地上の平和を守る聖闘士なら、分かるはず……俺たち聖闘士が、一度遂行すると決めた信念を途中で放棄することなど、例え天上の星々が全て燃え尽きようと有り得ないことだ！ まして、今の俺たちは……アテナを救うために十二宮を上っているのだから！」
熱情とは、正にこのことか。氷河が叫ぶ、熱く燃え盛る感情。その想いが燃焼すればするほど、再び天蝎宮の中を冷気が走る。その高まりゆく小宇宙が、強制的に中断させられた。見れば無傷であった氷河の腹部や右大腿に、スカーレットニードルの真新しい痕が刻まれている。その痛みが氷河の集中力を途絶えさせ、攻撃のために生み出した冷気を再び治療のために使わざるをえなくさせた。
こんな消極的な戦い方では、事態は一向に改善しない。それは氷河にも分かっている。けれど、これしかスカーレットニードルに対抗する術は無いのだ。こうして発狂しそうなほどの激痛に耐え、いつかきっと来るであろうミロの隙を待ち続ける。その好機を突くためにも、無様ながら氷河はミロの猛攻を耐え続けなければならない。
「本当に驚嘆の極みだぞ、氷河。まさか、青銅聖闘士の君がここまで持ちこたえるとはな……。今、君の体に何発のスカーレットニードルが撃ち込まれているか分かるか？ 計十四発……気付けるかな？ その一つ一つの傷跡が、ある星座の形と一致していることに」
それはミロの守護星座である蠍座の形に違いなかった。ただ一つだけ欠いている点睛を残して、蠍座十五の星が氷河の肉体に突き刺さっている。
「そして、そこまで多量に撃ち込まれては君のせっかくの策も――」
ミロの言葉が言い終わらない内に、氷河は自身に起きた現象に慄いた。それまで結晶で塞がれていた部分も含めて、十四箇所の傷穴全てから真っ赤な血液が噴出しだしたのだ。
「この通り、用をなさんということだ。スカーレットニードルによって刺激された血管が、君の凍気を上回るほどに圧縮されて全身の血を排出している。ものの数分で、君は息絶えるだろう」
そんなミロの説明が、やけに遠くから聞こえてくるようであった。目も霞んで、輝く黄金聖衣の光がぼやけて見える。全身から漂う血の臭いも上手く嗅ぎ取れず、舌先も痺れて返す言葉が出てこない。
「本来、スカーレットニードルはこんなにも撃ち込む技ではない。大抵は二、三発……多くとも五、六発で済ませて相手に苦痛だけを与える技。そうすることで、相手に降伏を促してきたのだが、どうやら君は一向に命乞いをせんようなのでな……やむを得ず、本気でいかせてもらった」
その声色には、若干の申し訳なさが含まれているようでもある。氷河に対してか。出会ったばかりの敵である氷河に、そこまでの義理や情けは無い。氷河を死に至らしめることに際して、ミロは氷河を育て上げた自分の親友に対して心苦しさを覚えていた。
ミロの声など届いていないかの如く、氷河はぶるぶると震えて俯いている。視界は光を失い、鼓膜を突き破るような耳鳴りが止まらない。氷河の身に何が起きているのか、ミロだけが把握していた。
「その出血量だ。君自身の五感が薄れていったとしても、不思議ではあるまい。その五感が完全に失われた時、君は死ぬ。だが、氷河よ……最後の情けだ。その舌が動く内に、自分の敗北を認めろ。そうすれば、出血だけは止めてやってもいい。間違っても、残された五感を振り絞って玉砕覚悟の攻撃に出ようなどとは考えるな。今、少しでも動けば君は確実に死ぬのだぞ」
「何故、だ……。何故、貴方はそうまでして俺を生かしたがる……？」
思えば、先程から妙なのだ。星矢たちの小手試しをしたアルデバランとも異なる。ミロは、敵である氷河に対してやけに気を遣っている。明らかにミロ自身の意思によって、氷河の命を奪いたくない様子なのだ。教皇の正体が悪だと知って、それで青銅聖闘士たちに力を貸そうとしているのでもない。教皇に従う悪の片割れとして、青銅聖闘士たちを葬ろうというのでもない。その答えを、ミロは静かに語り始める。
「友情に報いるため、と言えば満足かな？ 君を鍛えたアクエリアスのカミュは、幼い頃からの親友だ。そのカミュの先の行動を見届けた身として、カミュの想いを無下にしたくないのだ」
先の行動とは何か。それは、わざわざ天秤宮にまで出向いて氷河を打ち倒したことに他あるまい。あの時、氷河は本気で師が敵になったと思った。実際は、そうではなかったのだ。カミュは聖域に背いた弟子を自らの手でクールに粛清した訳でも、怒りや憎しみに駆られて氷河に殺意を抱いたのでもない。むしろ、そうした思いとは真逆だったのだ。
「カミュは、まさか……」
「そうだ。カミュは、温情によって君を戦いから外してやろうとしたのだ。この先、君たちが教皇の間まで辿り着けるとは思えない。必ず、黄金聖闘士の誰かに殺される。そうなる前に、愛弟子の君だけは殺さない程度にダメージを与えておいて、戦いが終わるまで眠ってもらおうとしたのだ。表向きは、聖域に反旗を翻した青銅聖闘士を成敗するという名目でな」
敬愛する師の本意。それを聞かされて、氷河の中でふつふつと沸いていく。それは感謝ではなく怒り。師の愛に涙するより、見下されたことに氷河は激怒した。
「舐める、なよ……」
ミロが僅かに目を見開く。助かる見込みが無いほどの出血でありながら、聞こえてきた氷河の声ははっきりとしていた。その身を立たせる二本の脚も、しっかりと床を踏みしめている。氷河の輝く小宇宙が、スカーレットニードルの猛毒を解毒するほどに高められた証拠だ。まっすぐにミロを見据えながら、氷河は思いの丈を叫んでいく。
「それは俺の十五年間の人生、全てを否定することだぞ……ミロ、いや我が師カミュよ！ この氷河、我が身可愛さで兄弟を見捨てる薄情者だと思ったか。確かに、俺はあいつらと同じくこの身に流れる父の血を嫌悪し、こんな運命に生み落とした神を恨んだ。よくも不幸な人生を進ませてくれたと、最愛の母さえ呪いそうになった」
五感が薄れゆくことが何だというのか。氷河は、内から無限に湧き上がる小宇宙でもって己の体を支え、消えかけた感覚を補っていった。一月半前に十五歳の誕生日を迎えたばかりという年端ながら、歩んできた人生の重みは決してミロやカミュにも劣らないとばかりに言葉を足していく。
「そんな愚かしい考えを吹き飛ばしてくれたのが、同じ境遇を乗り越えようと努力し、互いを支え合う兄弟たちの姿だったのだ。その姿から、俺は決して一人ではないということを教えられ、与えられた運命から目を背けることを止めたのだ。
その星矢たち……俺の兄弟が死にもの狂いで教皇の間を目指している中、どうして俺一人だけが戦線を離れられる!? 俺の望みは、例え死したとしても兄弟と同じ道を歩んでいくことなのだ。数十年後も先まで、戦いから逃げたことを後悔することじゃない。俺は……氷河は、熱い血を分け合った兄弟と生きたいのだ！」
熱い心を叫ぶ氷河。その肉体は、ほとんど死に掛けだ。その身を動かす奇跡の小宇宙が途絶えれば、きっと氷河は気力の全てを失って命尽きるだろう。もしくは、僅かに生きている肉体の機能を完全に奪ってしまえば。それを行える拳をも、ミロは持っていた。
「氷河……君の体に刻み込んでやった十四の星。足りていないのは分かるだろう？ 蠍座を構成する星々は、全部で十五……まだ、一つ足りていないのだ」
言われてみても、氷河には自分の肉体を観察するだけの余力は残されていない。そんなことを意に介すよりは、目の前に立ちはだかるミロという巨大な壁を乗り越えることに意識を向ける。ミロを倒し、その先へと進むために。
氷河からの返事が無かろうと、ミロの意思は変わらない。スカーレットニードル最後の一撃を放つことに、もはや躊躇いは無いのだ。ミロの指先が、一段と鋭く輝き出す。
「蠍座の中心にて、一際赤く輝く巨星……アンタレス。それはギリシア語でカルディア・スコルピオン――サソリの心臓――と呼ばれていることからも分かる通り、これまでの小さな傷では済まない。相手の命を確実に奪う致命傷を約すのだ」
その宣告に、もはや恐怖する氷河ではない。ミロもまた、脅しのためだけに小宇宙を高めているのではない。二人の間に走る氷雪と毒牙の緊張が、最後の時に向かって空気を刃のように震動させる。
「分かるだろう？ 俺も、もはや君の命乞いなど望まん。このアンタレスを撃つのは、君の降参を促すためではなく……」
氷河に確実なる死を与えんがため。それがどうしたと、氷河はミロから視線を外さずに睨み続ける。ミロの奥に控えるカミュにも届くよう、碧い眼を見開いて。ミロに言われるまでもなく、氷河は自身の命を投げ出す覚悟であった。いや、それ以上に命そのものを小宇宙に転換してミロへとぶつける覚悟でいた。
「ただでは死なん。かつて白銀聖闘士のバベルが、俺の氷さえ溶かす炎を作り上げたように……今度は俺が、黄金聖衣さえも凍結させる冷気を生み出す！」
「ならば俺も手加減せず、全力の小宇宙を集中させる。狂神アレスさえも屠る威力を秘めた、スコーピオンのミロ最後の一撃……今こそ見舞ってくれるぞ」
その毒針が放たれるよりも前に、氷河は己の周囲に発生させた氷の弾丸を飛ばす。肉体は、ほとんど動かない。意識のみで、自己最大の凍気を放った。それが黄金聖衣には通じないと理解しなかったのか、と心の中で考えながらミロは感じていた。皮膚を冷たい物が這っていく。まさかと思い左手で頬をなぞると、白い霜がそこから落ちた。
氷河の小宇宙は、ここに来て驚くべき位にまで昇華されていた。絶対零度とまでは行かないまでも、黄金聖闘士の肉体に冷気をぶつけられた。太陽の如く輝く聖衣で身を守る黄金聖闘士の肉体に。そのことに驚嘆する以上に、ミロは心の中で氷河を称えていた。そして駆け寄って抱きしめてやる代わりに、自身の最大の拳を氷河へ返す。
「スカーレットニードル！ アンタレス！」
ミロの叫びが、指先から巨大な閃光を放たせる。全てを飲み込むほどに赤く眩い光を前にして、氷河も決してたじろいだりはしない。だが悲しいかな、氷河にはミロの攻撃を打ち破るだけの力は残されていなかった。氷河の肉体に打ち付けられた蠍座の刻印は、夜空に浮かぶのと同じ形となっていた。その全ての傷穴から、おびただしい量の熱血が噴き出す。意識を失ったのか、それとも既に息絶えたのか。氷河は無言のまま、床に手を付くことなく倒れた。
それを見届けると、ミロは静かに歩み寄る。倒れ伏せている氷河の横を通り過ぎ、未だリストリクションの制御下にある星矢と紫龍の前で立ち止まる。ミロの眼が、妖しく光る。その光は、リストリクションの魔力を解除するものだ。網膜からミロの小宇宙を受け取ると、星矢も紫龍も束縛から解き放たれて膝から崩れ落ちた。
術を解かれたのは良いが、未だ全身が痺れている感覚が残っており立ち上がるのは容易ではない。だが、氷河はもっと危険な状態に晒されているのだ。氷河をそこまで追い詰めた張本人の方が、二人に目線で促した。
「アンタレスを含め、今まで撃ち込んだスカーレットニードルは全弾、僅かに急所を外してある。死にはすまい。手当を施してやり、そこに伏せているアンドロメダ共々連れて帰るがいい」
だが、それも数日は安静にしていればの話。氷河の身を襲った衝撃や激痛は、並の聖闘士では到底耐えられないもの。それには違いがないのだ。ただ即座に命を取らなかっただけで、手当が遅れれば死が待ち受けるか、生き永らえても植物状態となってしまう。
だからこそミロは星矢たちを解放し、速やかに氷河を助けるよう促しているのだ。それなのに、当の氷河は驚くべき行動に出ている。それに気が付いたミロは、本当に驚きの表情で氷河を振り返った。
「氷河……お前は、そんな姿になりながらも……もはや立ち上がることすら出来ぬ身でありながらも、這いつくばりながら先を目指そうというのか!?」
全身から流れ出る真っ赤な血液を引きずりながら、氷河は懸命に腕を前へと伸ばし、少しずつ体を進めている。純白の聖衣さえ、もはや全てが赤黒く染まって輝きを失っている。今、少しでも動けば助かる命も助からなくなる。そのことを氷河自身が分かっていないとは思えない。自分の命すら度外視して、氷河は一歩でも先へと進もうとしていた。
ミロは驚きを通り越して恐怖すら感じ始めていた。後から兄弟たちも付いてくると信じて、氷河は振り返りもせず天蝎宮を抜けようとしている。そんなことは叶うはずがない。もう一歩も進まない内に、氷河は力尽きてしまうだろう。そのことにミロは恐れを抱いた。
戦場で敵や仲間の命が失われる。そんな光景は、ミロとしても初めての体験ではない。にも拘わらず、氷河の死にミロは経験したことのない否定の感情を抱いていた。それは、もはやカミュとの友情とは無関係の世界。ミロは、黄金聖闘士の体さえ凍てつかせた青銅聖闘士の小宇宙に深く尊敬の念を抱き、それが永遠に失われてしまうことに激しい危惧を覚えていた。そして、その不安を解消するための唯一の手段を行使するのに、何の迷いも無かった。
星矢たちより早く、ミロは氷河の側へと駆け寄っていた。そして今にも力尽きそうな身体を優しく抱き起すと、その胸の中心に向けて指を突き立てる。今度は猛毒のスカーレットニードルではなく、治療のための心央点を突いたのだ。たちまち氷河の出血は止まり、全身に僅かながら活力が蘇る。
「ミ、ロ……」
定まらない視点でミロを見上げながら、微かに声を出して氷河が尋ねる。どうして自分を助けたのか、と。それに対する答えは、一つだけだ。ミロが、カミュに対して義を貫こうと決めただけの友情を、氷河にも同じだけ抱きたくなったからだ。階級は二つも下。年齢も五歳は下回る氷河に対して、ミロは同輩以上に向けるような視線を氷河に送っていた。
ミロ自身はまだ、城戸沙織が本物のアテナなのかどうか分からないと考えている。それでも、自身が尊敬する氷河が彼女を信じているということ。自分もまた、教皇に少なからず疑念を持っていること。そうした事実から、ミロは城戸沙織に賭けてみたくなった。彼女を奉じる青銅聖闘士たちを先へと進ませてやりたくなっていた。
ミロの腕の中から、転げるようにして氷河が床へと倒れ込む。慌てて伸ばした手を、ミロは少しだけ待つことにした。氷河は今、自力で立ち上がろうとしている。いかに血止めの急所とされる心央点を突いたからといって、それでスカーレットニードルの毒素からすぐに立ち直れるものではない。肘と膝を床へと押し当て、体中を震わせながら氷河は立とうと試みる。
「手を貸そうか？」
一度は氷河の力を信じたミロも、あまりに痛々しい姿を見て思わず声を掛けてしまう。氷河は、そんなミロに視線すら向けずに答える。
「いえ……一人で立てます」
その目は、天蝎宮の出口だけを見据えていた。その先にある宮にて氷河を待つ、アクエリアスの黄金聖闘士に対して視線を投げかけていた。ぐっと腰に力を入れ、やっと床から起き上がる。
「俺は、一人でも……あの人の所まで……」
その胸に熱く宿る思いを口にしながら、懸命に歯を食いしばる氷河。しかし、ダメージはすぐには回復しきらない。膝をガクガクと揺らして、再び床に倒れそうになる。その肩を強く支える温もりがあった。
「独りじゃないだろ」
紫龍が、氷河の腕を取って肩を抱いてくれている。
「お前が言ったんだぜ、兄弟」
反対側からも、星矢が同じようにして。
「氷河には、僕たちがついているよ」
背中に、そっと触れてくる手の感覚は、瞬のものだ。天秤宮で己を癒し、励まし、温めてくれた時と同じ感触が伝わってくる。自分のせいで瞬が死んだとあっては、悔やみきれないところであっただけに彼の復活が素直に嬉しい。
そんな四人の傷付き支え合う背中に、ミロは複雑な心境で不安げな視線を注ぐ。いっそ自分が彼らに先駆けて教皇の間まで乗り込んでしまえば、それが一番早いはず。そんな考えを見透かされたのか、頭の中で懐かしい声が響く。
アリエスのムウの声だ。彼らの命を助けるのは良い。だが此度の戦いは極力、彼らだけの力で進ませてやりたい。ムウのテレパシーは、そう言っていた。
ムウほどの男が言うのであればと、ミロも折れた。それでも心は静まらない。四人の青銅聖闘士たちの足取りは彼らが負った傷のために重く、なかなかミロの視界から遠のいていかないからだ。前途ある少年たちを、わざわざ死地へと送り出してしまう。ミロの心は、激しくざわついて時化の如くに乱れた。
「クールになれよ……」
思えば十数年前、同じ言葉を友へと送ったものだ。二人とも、まだあどけなかった時分。己の感情も満足に処理できず、無言で涙を浮かべることしか出来ないでいた友に向けて、ミロが発した言葉。それを今度は、自分自身の心に向かって言い放つ。その友にとっても、辛い道を歩ませることとなってしまったことに対しても騒ぐ自身の胸に、ミロはぽつりと呟いた。
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