「冥王ハーデス 冥界」編

第二十六話　～　第三十話

第二十六話　『嘆きの壁』

　星矢に続いて紫龍と氷河もジュデッカに到着した。目を覚ましてアンドロメダの聖衣を纏った瞬と共に奥へと進めば、そこにはシャカが一人、巨大な壁の前でたたらを踏んでいた。
「アテナはハーデスを追って、この壁の向こうへと進まれた。だが、神ではない我々では壁を突破することは出来ない。これこそ地獄とエリシオンとを隔てる最後の関門、その名も嘆きの壁」
　最も神に近いと讃えられるシャカでさえ分厚い壁に行く手を阻まれているのだ。星矢たち青銅聖闘士には成す術無しかと思われたその時、背後から次々と現れる黄金の聖闘士たち。
「老師、よくぞ御無事で！　シュラ、貴方も蘇ったのか……」
「我が師カミュ、それにミロも……再びお目に掛かれるとは」
　別れた師との再会に喜ぶ紫龍と氷河。そればかりではない。ムウ、アルデバラン、デスマスク、アイオリア、アフロディーテ……彼らもまたアテナのイーコールを授かることで復活を遂げていた。
　更にジュデッカを目指して飛来する二つの輝き。雄々しき勇者アイオロスが纏っていたサジタリアスの黄金聖衣、そしてサガよりカノンに託されたはずのジェミニの聖衣までもが。

　時は僅かに遡り、アイアコスを倒してコキュートスを進軍していたカノンは、自らの前にラダマンティスが立ちはだかるのを目にした。
　それと同時にジュデッカに他の黄金聖衣が集まりゆくこともカノンは感じていた。聖衣に込められたサガの想いからなのか、ジェミニの聖衣は他の黄金聖衣と共鳴していた。
　ならばと聖衣を脱ぎ、他の黄金聖闘士が待つジュデッカまで送り込んだ。それをラダマンティスは自分との勝負を捨てたのかと唾棄する。
「見損なったぞ、カノンよ。誇り高き黄金聖闘士であれば、最後まで潔く戦え！」
「慌てるなラダマンティス。何も戦わずして貴様に首を取らせてやる訳ではない。このカノン、過去の罪を全て清算して以て瞑すべし。最後の相手に貴様を選んでやったまでよ」
「ほざくな。聖衣も無しにこのワイバーンのラダマンティスに挑もうとは、俺の恐ろしさをもう忘れたか」
「例え聖衣が無くとも私には新たな力が宿っている。ジュデッカにてハーデスと語るアテナの御言葉が私にも届き、それが黄金聖衣以上の力となって私の心身を支えているのだ」
　それこそが地上で最も大きく尊く美しく、そして最も強い愛の力なのだ。アテナに背いた罪を償い終えたカノンにも、大いなるアテナの加護が宿っていた。
　それを信じられないラダマンティスは自己最大の技であるグレイテストコーションをぶつけてカノンの生身を砕こうとする。その暗黒の小宇宙を見極めて回避するカノン。徐々に距離を詰めてラダマンティスに迫っていく。
「もらったぞ、カノン！」
　カノンの拳がラダマンティスに触れようかという距離に近付いた時、ラダマンティスの方が一瞬早く攻撃を仕掛けていた。
　血しぶきが舞い、カノンの胸にラダマンティスの拳が突き立てられるのを二人同時に目撃した。勝利を確信するラダマンティス。だが、全てはカノンの狙い通りであった。
　ラダマンティスの拳はカノンの身に食い込んだまま離れず、カノンは更に互いの体を密着させていく。そして放たれる、この瞬間まで蓄えつづけてきた最大級の小宇宙。
「銀河の果てまで……迸れ、我が小宇宙よ！」
　両者の肉体の内側から破裂したギャラクシアンエクスプロージョンの威力。如何にラダマンティスが不死身であろうとも肉片も残らず消滅してしまえば二度と復活など出来まい。
　強敵ラダマンティスを倒し終えたカノンの魂は、昇りゆく過程で兄サガの霊魂がジェミニの聖衣に戻っていくのを見届けた。